インターネットの誕生~ARPANETから始まった情報革命
今では当たり前のようにスマートフォンやパソコンから使っているインターネット。世界中の情報にアクセスできる便利な仕組みですが、その誕生には意外な背景がありました。インターネットの起源は1969年、アメリカで始まったARPANET(アーパネット)というネットワークです。このARPANETこそが、現在のインターネットを生み出す第一歩となりました。
ARPANETは、アメリカ国防総省の研究機関であるARPA(高等研究計画局)が開発したプロジェクトでした。1967年に研究がスタートし、1969年10月29日に最初の通信実験が行われています。この実験では、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とスタンフォード研究所(SRI)の2地点を結ぶ試みが実施されました。歴史的な瞬間ではありましたが、「LOGIN」という文字を送ろうとしたところ、「LO」まで送信した時点でシステムがダウンしてしまったという記録が残っています。
ARPANETの開発目的について、核攻撃に耐えるための軍事ネットワークだという誤解が長く広まっていました。しかし実際には、複数の大学や研究機関のコンピュータ資源を共有し、研究開発を促進することが主な目的だったのです。当時のARPA責任者であったロバート・テイラーも、この誤解に対して正式に抗議しています。
革新的だったパケット交換の仕組み
ARPANETが画期的だった理由の一つが、「パケット交換」という通信方式を採用したことです。この技術は、データを小さなパケットという単位に分割して送信し、受信側で元のデータに復元する方法でした。従来の回線交換方式では、通信中は回線を占有し続けるため、効率が悪く、障害にも弱いという問題がありました。
パケット交換では、各パケットに送信先の情報が付けられているため、途中で回線や中継機(ノード)に故障があっても、別の経路を通って目的地に届けることができます。この分散型の構造により、ネットワーク全体の信頼性が大きく向上しました。同じ回線で複数の通信を同時に処理できるようになったことで、回線の利用効率も飛躍的に高まったのです。
| 通信方式 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 回線交換 | 通信中は回線を占有 | 安定した通信品質 | 効率が悪い、障害に弱い |
| パケット交換 | データを小分けして送信 | 効率的、障害に強い | パケットの順序制御が必要 |
4つの拠点から始まった接続
1969年10月の運用開始時、ARPANETは4つの拠点を結ぶ小規模なネットワークでした。接続された4地点は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ユタ大学、そしてスタンフォード研究所です。これらの拠点を、IMP(Interface Message Processor)という機器で接続しました。IMPは現在のルーターに相当する役割を果たしていた装置です。
データパケットの転送を実現するため、NCP(Network Control Program)というプロトコルが開発されました。開発者は当時UCLAの大学院生だったステファン・クロッカー氏で、彼は後にインターネットの標準仕様を記述するRFC(Request for Comments)の記念すべき1番目の文書も執筆しています。1971年から1972年にかけて、ARPANETに接続されたすべての機器にNCPが実装され、ネットワークインターフェースが標準化されました。
- カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)
- カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)
- ユタ大学
- スタンフォード研究所(SRI)
急速に拡大したネットワーク規模
4地点から始まったARPANETは、その後急速に拡大していきます。1973年までには40ノードを超える大規模ネットワークに成長し、接続範囲もアメリカ全土からヨーロッパの一部まで広がりました。この拡大に伴い、ネットワークの管理方法も整備される必要が出てきました。
スタンフォード研究所(SRI)は、ネットワークに接続する各ノードの番号を一括管理する役割を担当しました。この組織はNIC(Network Information Center)と呼ばれ、「SRI-NIC」とも称されています。当時は、ホスト名とネットワークアドレスの対応表として「HOSTS.TXT」というテキストファイルが使われていました。新しくARPANETに接続する組織は、このファイルをSRI-NICから入手して自分のホストに導入することで、相手先を名前で指定できるようになっていたのです。
インターネットへの進化を促した技術革新
ARPANETが順調に拡大する一方で、新たな課題も生まれてきました。ホスト数が増えるにつれて、HOSTS.TXTファイルの更新作業の負担が大きくなり、すべての組織が最新版を参照し続けることが困難になってきたのです。この問題を解決するために、後にDNS(Domain Name System)という仕組みが誕生することになります。DNSは、名前(ドメイン名)とアドレス(IPアドレス)の対応を分散して管理する方式で、現在のインターネットでも重要な役割を果たしています。
1970年代後半になると、ARPANET以外にもパケット通信を採用した独立したネットワークが各地で運用されるようになりました。これらの異なるネットワークを相互接続する必要性が高まり、DARPAのロバート・カーン氏が「開かれたネットワーク」という概念を提唱します。この概念をもとに開発されたのが、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)というプロトコルです。
TCP/IPの登場とインターネットの誕生
TCP/IPは、特定のハードウェアに依存しない柔軟なプロトコルでした。この技術により、異なる種類のネットワーク同士を接続することが可能になります。1983年、ARPANETは従来のNCPからTCP/IPへと切り替えられ、これが現在のインターネットにおけるTCP/IP使用の決定的な転換点となりました。この切り替えにより、ARPANETは初期のインターネットのサブネットとして位置づけられるようになったのです。
TCP/IPの普及とともに、いくつかの重要な設計思想も広まっていきました。その一つが「エンドツーエンド」という考え方です。これは、ネットワーク自体の機能は単純にして、複雑な処理は個々のホストに任せるという設計原則でした。また、「ベストエフォート」という概念も導入されました。これは、パケットを確実に届ける保証はしないが、可能な限り努力して配送するという方式です。
| 年代 | 出来事 | 影響 |
|---|---|---|
| 1969年 | ARPANET運用開始(4ノード) | 世界初のパケット交換ネットワーク誕生 |
| 1971~1972年 | NCPの実装完了 | ネットワークインターフェースの標準化 |
| 1973年 | 40ノード超に拡大 | 国際的なネットワークへ成長 |
| 1983年 | TCP/IPへの切り替え | 現代インターネットの基盤確立 |
研究ネットワークから商用インターネットへ
1980年代に入ると、ARPANETの一部は軍事用のMILNET(ミルネット)として分離されました。残った部分は、アメリカ国立科学財団が構築したNSFNET(エヌエスエフネット)に吸収されていきます。NSFNETは、スーパーコンピュータを効率的に利用するために大学間を結ぶネットワークとして発展しました。
当初、これらのネットワークは研究や教育目的に限定されており、商用利用は厳しく制限されていました。しかし1980年代後半から1990年代にかけて、商用利用の解禁が進みます。この商用化への開放をきっかけに、インターネット接続サービスを提供するプロバイダーが次々と誕生しました。日本でも1992年にIIJ(インターネット・イニシアチブ・ジャパン)が設立され、1993年から商用サービスを開始しています。
現代社会を支えるインターネットの基盤
1995年にマイクロソフトがWindows 95を発売したことで、インターネットは爆発的に普及しました。Windows 95には、インターネット接続機能やWebブラウザが標準搭載されており、一般家庭でもインターネットを体験できるようになったのです。ただし当時は通信速度が遅く、従量課金制が一般的だったため、画像1枚の読み込みにも数分かかることがありました。
2000年代に入ると、ADSLやFTTH(光ファイバー)といったブロードバンド接続が普及し、高速・定額・常時接続という環境が整っていきます。これにより、動画配信やオンラインゲームなど、大容量のコンテンツを扱うサービスが一般化しました。現在のインターネットは、ARPANETの時代と比べて格段に複雑で高速になりましたが、パケット交換やTCP/IPといった基本的な枠組みは変わっていません。
インターネットがもたらした情報革命
ARPANETから始まった技術革新は、単なる通信手段の進化にとどまりませんでした。情報の流通方法、コミュニケーションの在り方、ビジネスモデル、さらには社会構造そのものを大きく変える「情報革命」を引き起こしたのです。電子メール、Webサイト、SNS、クラウドサービスなど、現代社会に欠かせない多くの技術とサービスが、インターネットという基盤の上に成り立っています。
インターネットは当初、技術者や研究者といった限られた人々が議論や情報交換のために利用していました。しかし回線の高速化と利用者の増加により、誰もが情報の発信者となり、世界中の人々とつながることができる時代が到来しました。この変化は、知識の民主化、表現の自由の拡大、グローバルな協働の促進など、多方面にわたる影響をもたらしています。
- 情報へのアクセスが誰にでも開かれた環境
- 距離や時間の制約を超えたコミュニケーション
- 新しいビジネスモデルと経済活動の創出
- 教育、医療、行政などあらゆる分野のデジタル化
- グローバルな協働とイノベーションの加速
インターネットの未来と課題
1969年の4地点から始まったネットワークは、今や世界中の数十億台のデバイスを接続する巨大なインフラへと成長しました。しかし、この成長に伴って新たな課題も生まれています。セキュリティの確保、プライバシーの保護、デジタルデバイド(情報格差)の解消、フェイクニュースへの対応など、解決すべき問題は山積しています。
それでも、ARPANETの開発者たちが目指した「開かれたネットワーク」という理念は、現在のインターネットにも受け継がれています。特定の組織や企業に支配されることなく、誰もが平等にアクセスできるという基本的な設計思想は、インターネットの最も重要な特徴の一つです。この理念を守りながら、技術革新を続けていくことが、これからのインターネットに求められる方向性と言えるでしょう。